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車いすバスケットボールの三菱電機ワールドチャレンジカップ(8月29日~9月1日、武蔵野の森総合スポーツプラザ)の最終日。

閉会式の後、競技会場の一番奥に設けられた取材用のエリア(ミックスゾーン)で、テレビや新聞の記者たちが日本代表選手を囲んで取材していた。私もその中に交じり、選手の話を聞いていた。

メディアの質疑応答を終えた日本代表選手が一人、会場を後にしようと移動し始めた。何気なくその様子を眺めていると、選手に対して、2階の観客席から声が掛かった。

「〇〇選手、このあいだ、車いすバスケ教えてくれてありがとうございました!」

声の方向を見上げると、小学校低学年と思われる男の子が2階の観客席の手すりに身を乗り出すようにして、選手のほうを覗き込んでいる。

「〇〇さん、がんばってください!」
男の子の声がきっかけになったのか。隣に立っていた女子2人組の声も続いた。

選手は、2階からの声援に笑顔で応え、移動していった。

しばらくして、私も会場を後にしようと出口へ向かった。
すると1階の会場出入り口付近に、観客の行列ができている。親子と思われる人たち、若い男女、小学生の子供たち、20~30人ほど、それぞれ、大会のパンフレットを手にして列に並んでいる。

日本代表選手が一人、行列の先頭の人と何か話している。
試合中の厳しい表情はすでに消えており、和やかな雰囲気が漂っている。
選手が、パンフレットの上でペンを動かした。
サインを求められ、それに応えているのだと分かった。

いわゆる、「出待ち」(ファンが、芸能人やスポーツ選手がライブ会場や競技場から出て来るのを待つ現象)だ。

車いすバスケは、人気の漫画もあり、パラスポーツの競技の中でも比較的よく知られている。今大会の有料チケット(日本代表応援シート、アリーナ席)は、前売り券、当日券ともに売り切れ。
試合中の大歓声を聞いて、車いすバスケの人気の高まりを実感していたが、大勢のファンの「出待ち」まで目撃したのは初めてだった。

2階席から声を掛けた小学生、女子2人は、「〇〇選手に声を掛けたい」と思い、取材が終わるまで待っていたに違いない。

「声を掛けたい」理由は、
「ありがとうと伝えたい」だったり、
「応援していることを伝えたい」だったり、
人によって様々だが、その選手に対して、何らかの思いがあるからこそだろう。

その何らかの思いは、いつ、どのように生まれたのか。

車いすバスケを見た。
選手の話を聞いた。
体験会に参加した。
選手の思いを知り、
パフォーマンスの魅力を知った。

そうした経験の積み重ねの中で、
選手に対する思いが育まれていったのではないか。

観客の心の中で、以前にはなかった何かが生まれ、膨らんでいく。
以前には関わることのなかった、ある選手に対し、
「声を掛けたい」という気持ちが生まれる。
その気持ちが、実際の行動に結びつく。

そうした変化は、ある瞬間に起こるものではなく、
一定の時間の中で起こるものだという気がする。

2020年の東京パラリンピック開催まで1年を切った。

今から、パラリンピック開催までの時間の中でも、
何らかの変化が起こるはずだ。

後から振り返った時に、どんな変化を見つけることができるのか。

私は、それを楽しみの一つにしたいと思っている。

(取材・撮影:河原レイカ)