第35回大分国際車いすマラソンは、リオ・パラリンピック日本代表の選考レースとなった。

第35回大分国際車いすマラソンは、リオ・パラリンピック日本代表の選考レースとなった。

第35回大分国際車いすマラソン大会・フルマラソンで、山本浩之選手(49歳)が総合2位、日本人1位となり、2016年のリオ・パラリンピック日本代表選手として推薦されることが決まった。総合優勝は、スイスのマルセル・フグ選手で、大会6連覇を達成した。

「とにかく、今日でリオの日本代表を決めるという気持ちでした」
リオ・パラリンピック日本代表の推薦枠を手にした山本は、いったん、ぎゅっと瞑った目を開いて、瞬きをした。
「ほっとしています」
緊張感の高いレースを制した、勝者の本音だった。

総合2位、日本人1位の山本浩之選手

総合2位、日本人1位の山本浩之選手

今回の大分国際は、リオ・パラリンピックの日本代表選考のレースとなっていた。有力候補にあがっていたのは、“国内3強”といわれる山本浩之選手、副島正純選手(45歳)、洞ノ上浩太選手(41歳)の3選手。
山本は、昨年の大分国際で総合2位、日本人1位を獲っており、大分のコースを得意としている。副島は、今年4月のロンドンマラソン(兼・マラソン世界選手権)で3位。洞ノ上は、2014年のボストンマラソンで2位、今年2月の東京マラソンで優勝している。3選手は実力と実績を備えており、他の選手とは一線を画す存在感がある。

この国内3強の3選手のうち、誰が、日本代表の推薦枠を獲るのか。
それとも、この3選手をねじ伏せてリオへの道を切り拓く、新たな選手が現れるのか――。
それが、今年の大分国際のテーマだったといえる。

10月8日、大分県庁前のスタートライン。
前日まで雨・曇を予報していた天気は、一転して、晴れ。
雨で濡れていた路面は、太陽が高くなるにつれて、みるみる乾いていった。
沿道には、所属チームの関係者が、選手の氏名を記した幟を持って並んでいる。
ピンと張りつめた空気の中、午前11時、レースは始まった。

序盤からハイ・ペースで進み、21km地点で先頭集団に残ったのは5人。

一人は、銀色のヘルメットが目印の“銀色の弾丸”・スイスのマルセル・フグ選手(29歳)。
そして、山本浩之選手は、オレンジと黒のユニフォームを身に着け、他の選手の様子をみながらの冷静な走り。
副島正純選手は、両腕の袖に入っているピンク、黒、グレーのデザインが印象的だ。
今大会の1週間ほど前に左肩の腱板一部断裂と分かり、「走ってみなければ、分からない」と話していたが、
時折、集団を引っ張り、ペースをつくっている。
赤と黄の線で火花のような模様が描かれているユニフォームは、洞ノ上浩太選手だ。

そして、国内3強とともに先頭集団に残っていたのは、大きな肩周りの西田宗城選手(31歳)だった。

先頭集団にいる日本人選手は、「1時間27分」を念頭に走っていた。

日本代表選考の基準は、主に2つあり、「大分国際のコースを、1時間27分以内で走ること」と「外国人選手を含む3位以内、かつ日本人選手1位になること」だった。

前半のハイ・ペースで、山本、副島、洞ノ上、そして西田が、1時間27分の射程圏内に入った。
本当の勝負は、そこからだった。

国内3強と比べると実績の少ない“挑戦者”の西田は、レースの後、「僕の場合は、他の選手と比べてあまりマークされていないと思ったので、隙をねらっていけたらと思っていました。何も失うものがないので、後半のことを考えず、前半から積極的にいきました」と話した。

しかし、21km過ぎで小刻みに仕掛けた西田の揺さぶりでは、先頭集団はばらけなかった。

大分国際のコースの勝負のポイントを熟知しているマルセル、山本がチャンスをうかがっていた。

37km過ぎ、飛び出したのは、6連覇を狙うマルセルだった。
それに反応して続いたのが、山本。
少し差が開いて、西田と副島が総合3位争いとなり、それを洞ノ上が追いかける展開になった。

競技場内で、副島が西田を抜いて総合3位。

競技場内で、副島が西田を抜いて総合3位。

洞ノ上は、マシントラブルがあり、総合5位。

洞ノ上は、マシントラブルがあり、総合5位。

山本には、前を走るマルセルの姿が見えていた。
マルセルは、10月にカタール・ドーハで開催されていた陸上世界選手権に出場した後、渡米してニューヨークマラソンを走り、今シーズンを締めくくるレースとして大分国際を走っていた。
レースの前日の取材では、「熱はないが、少し風邪気味」「長旅の疲労が残っている」などと話しており、ベストコンディションではなかった。

「今回、マルセルは調子が悪いと感じられたので、それでも勝てないというのが悔しいです」と山本。
今大会の最優先の課題は、リオ・パラリンピックの日本代表選考だった。マルセルをはじめとする世界の強豪選手との勝負は、今後の課題だ。

山本は、リオパラリンピックの日本代表推薦枠を獲得

山本は、リオパラリンピックの日本代表推薦枠を獲得

「リオでは、金メダルを目指していきたいです。金メダルを目指て、結果として銀メダル、銅メダルがあると思っています」

大分のゴールラインを日本人トップで通過した山本は、リオ・パラリンピックへ向けてスタートを切った。

【大分国際車いすマラソン】フルマラソン
1位 マルセル・フグ 1時間24分53
2位 山本浩之    1時間25分02
3位 副島正純    1時間25分15
4位 西田宗城    1時間25分16
5位 洞ノ上浩太   1時間26分45

(取材・撮影:河原由香里)