東京パラ出場権獲得を目指して走る男子選手たち

車いすマラソンのレース「Challenge Tokyo Para 42.195km in 立川」が3月7日、陸上自衛隊立川駐屯地で開催された。日本人選手にとって、東京パラリンピックの出場枠を獲得するラストチャンスとして位置づけられた大会。男子9選手、女子2選手が出場したが、出場枠獲得につながる記録は出なかった。

日本は、2016年リオパラリンピックの車いすマラソンに男子4選手、女子1選手が出場。前々回の2012年ロンドンパラリンピックは男子6選手、女子1選手が出場した。
車いすマラソンはパラリンピックの競技最終日に実施され、男子は複数の選手が出場してきた。東京の車いすマラソン出場選手が最終決定するのはまだ先だが、現時点で出場枠を獲得している男子選手は1人のみで、過去2大会の出場選手数と比べると少なくなりそうだ。

東京パラリンピックの車いすマラソンには、各国の代表選手として最大3選手が出場ができる。出場枠を獲得するには、①2019年開催のマラソン世界選手権で4位以内、②世界パラ陸上連盟(WPA)マラソン24カ月(2019年4月1日~21年4月1日)ランキングで上位6位以内に入り、さらに他の割り当て方法で出場枠を持つ選手を除いた上位2位以内、③ハイパフォーマンス割り当て枠の代表推薦選手の推薦上位選手-これらのいずれかを満たすことが条件となっている。

日本人男子は鈴木朋樹(トヨタ自動車所属)が、①の2019年のマラソン世界選手権の結果で、すでに出場枠を獲得。②のWPAマラソン24カ月ランキングは、対象期間内に開催されたWPA公認のマラソンレースで選手が出した記録をもとに順位が付けられている。3月1日現在のランキングでは、男子1時間22分23秒、女子1時間36分26秒を切ると、②の条件を満たすことになっていた。今回のレースは、出場枠を獲得していない日本人選手のために、マラソン24カ月ランキングの期限となる4月1日までに②の条件を満たすチャンスとして開催された。

立川駐屯地内のコースは、スタートからの直線1171.16mと1周2563.99mを16周する。飛行場の滑走路を利用したコースは、一般道のコースと比べると上り下りがなく、フラット(平ら)だ。

今回のレースは、何より「記録(タイム)」が重要だった。東京パラリンピック出場権獲得につながる男子1時間22分23秒、女子1時間36分26秒を切ることが目標に掲げられていたからだ。

同じコースを周回して走るため、出場枠獲得の圏内に入るための目標記録(男子1時間22分23秒、女子1時間36分26秒)をもとに、コース1周ごとの目標タイムが割り出されていた。ゴール地点の脇に設置された大きなデジタル時計の傍には、目標タイムを書いた用紙を掲げるスタッフが待機している。選手たちが1周通過するたびに、実際のタイムと目標タイムを確認できるように準備されていた。

午前10時、選手たちが一斉にスタートした。

気温は7度、前日から10度近く下がっていた。

1周目、選手たちは目標タイムを満たす、速いペースで進んでいた。前方から後方にかけて縦長の列に並ぶように走っている。

車いすマラソンでは、複数の選手が縦一列になり、先頭を交代しながら走るローテーションを組んで走ることが、好記録を出す戦略の一つとなっている。先頭の選手が風を体に受けるが、そのぶん後方の選手は風を避けて体力を温存できる。先頭が引っ張る形で加速につながることもある。互いに先頭を交代することで、速度を維持して進むことができる。

出場枠獲得につながるタイムを出すのは容易ではないだろう。互いに協力して終盤までローテーションしていくのが「定石」と思われた。

しかし、2周目に入ると、ほぼ等間隔で走っている選手たちの列に乱れが見え始めた。9選手のうち前を走る4選手と、その他の選手との間が徐々に開いていく。後方の選手たちは前方の4選手と同程度の速度を保って走り続ける力を持ち合わせていないようだ。一方、東京パラリンピック出場権獲得のための目標タイム達成を考慮すると、前方、第一集団4選手は速度を落とすわけにはいかない。選手たちの集団は割れて2つになった。

第一集団の4選手は互いに先頭を交代するローテーションを組んで走るものの、速度はなかなか上がらない。

男子の目標記録1時間22分23秒を切るには、10キロ地点19分31が目安だが、先頭の選手の通過は21分06。1分35秒の遅れが出ていた。ハーフ地点の目標目安41分11に対し、44分33。レースが進むにつれて、目標目安のタイムと差が開く一方となり、出場枠獲得につながる記録には手が届かない見通しとなった。

男子の結果は、1位 洞ノ上浩太(ヤフー所属)で記録1時間30分40。出場枠獲得の②の条件を満たす男子選手は出なかった。

女子は2選手が出場し、1位 喜納翼(タイヤランド沖縄)、2位 土田和歌子(八千代工業)で、ともに記録1時間45分04だった。喜納の自己ベスト記録1時間35分50秒(2019年大分国際車いすマラソンで記録)は、3月現在のWPAマラソンランキングで、②の条件を満たしている。今回のレースでは好記録ではなかったが、東京パラリンピック出場枠獲得に近い位置に付けている。

 自国開催のパラリンピック。競技最終日に東京都内のマラソンコースを車いすの選手たちが走る予定だ。これまで車いすマラソンについて知らなかった人が知り、観たことがない人が観戦するチャンスになるだろう。

 パラリンピックは4年に1度開催される世界最高峰の大会だ。出場可能な競技レベルに到達した選手だけがその舞台に立つことができる。各国の代表選手たちがコンデションを整えて最高のパフォーマンス発揮を目指し、メダル獲得に挑む。選手個人にとって、パラリンピック出場経験はその後の競技人生や、引退後の人生に影響するものになるのではないか。

東京パラリンピックの車いすマラソン出場選手は男子1選手、女子1選手になるかもしれない。日本のユニフォームを身に着けて走る選手の数が少なくなるのは、残念だ。(取材・執筆:河原レイカ、写真提供:小川和行)

 喜納と土田の2選手が出場