銀色のヘルメットがトレードマーク、優勝したマルセル・フグ選手(右)と2位の鈴木朋樹選手(左)

銀色のヘルメットがトレードマーク、優勝したマルセル・フグ選手(右)と2位の鈴木朋樹選手(左)

11月17日に開催された第39回大分国際車いすマラソンの男子マラソン(T34/T53/T54クラス)。レース前日の夜、私は、大会のウェブサイトで出場選手の顔ぶれを眺めながら、観戦のポイントは2つあると考えていた。

1つは、「ドバイ組」の選手たちが、どのような走りをするか。もう1つは、「国内組」の選手たちが、この大分国際に向けてどれだけ仕上げてきているかだった。
「ドバイ組」とは、11月7日から15日までアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されたパラ陸上世界選手権で活躍した選手たち。具体的には、マルセル・フグ選手(33歳、スイス)、ダニエル・ロマンチュク選手(21歳、USA)、鈴木朋樹選手(25歳)の3選手だ。
マルセルは、銀メダル2つ、銅メダル1つ(800m2位、1500m3位、5000m2位)、ダニエルは金メダル1つ(800m1位、1500m5位、5000m4位)を獲得。鈴木は800m8位、1500m8位とメダルには届かなかったが、1500m決勝では持ち味のスタート力を発揮し、2020年東京パラリンピックに向けて着実に力をつけていることを示した。

ドバイ組の3選手は、マラソンも強い。
マルセルは、これまでに大分国際で7度の優勝経験があり、ダニエルは今年4月のマラソン世界選手権(兼ロンドンマラソン)で優勝。鈴木はマラソン世界選手権で3位に入り、2020年の東京パラリンピック出場国枠を獲得している。
彼らは、世界選手権を終えてすぐにドバイから来日(帰国)し、大分国際に臨んでいた。

これに対し、「国内組」とは、マラソンをメイン種目に位置付けて、大分国際に照準をあわせてきた日本人選手たちだ。
2016年のリオ・パラリンピックに出場した山本浩之選手(53歳)、洞ノ上浩太選手(45歳)、副島正純選手(49歳)のベテラン3選手のほか、西田宗城選手(35歳)、吉田竜太選手(38歳)らが上位を狙っていると考えられた。
「国内組」の選手たちにとって、今年の大分国際は、特別な意味があった。
東京パラリンピックの出場資格が獲得できる2020年のマラソンワールドカップの日本代表選考を兼ねており、日本人選手の男女それぞれ上位3選手が日本代表選手として派遣されるからだ。大分国際は、2020年東京への第一ステップと位置づけられていた。

ドバイの世界選手権は、どの種目も、東京パラリンピックの前哨戦といってもよいハイレベルなレースだった。マルセル、ダニエル、鈴木は、激戦というにふさわしい戦いを終えたばかりだ。鍛え上げた肉体にも、疲れは残っているにちがいなかった。
ドバイの最高気温は25度前後なのに対し、日本は20度を下回る日もあり、季節が秋から冬に向かっている。ドバイと東京の時差は約5時間、飛行機のフライトは約12時間かかる。ドバイ組の選手たちは、気温差や時差、移動の負担に対応する必要があった。

一方、国内組の選手たちは、大分国際に目標を絞って準備をしていた。東京パラリンピック出場を視野に入れ、これまで以上に良い状態に仕上げているに違いない。ドバイ組の選手たちに挑み、最後まで競り合うようなレースが見られるかもしれない。私は、そんな期待を膨らませていた。

午前10時、大分県庁前を、選手たちが一斉にスタートした。
快晴に恵まれ、風もそれほど強くない。絶好のマラソン日和だった。
マルセルが先頭を獲り、ダニエル、鈴木も追随する。
国内組の選手たちも続き、12人の先頭集団が形成された。
レースが動いたのは、20キロ過ぎからだった。
12人の集団から、マルセルと鈴木の2人が示し合わせたように、スッと前に抜け出した。
後方にいたダニエルは、先頭の2人を追いかけず、第2集団の中に留まる選択をした。
マルセルと鈴木、その他の選手たちとの距離が開いていった。
ダニエルが追いかけないのを見て、「国内組」の山本が第2集団の先頭に出て引っぱったが、先を行く2人を再び集団に吸収するには至らなかった。

優勝争いは、マルセルと鈴木の一騎打ちとなった。
マルセルは、鈴木と先頭を交代しながらゴールを目指した。
競技場に入ると一気に加速し、鈴木を突き放して大会8度目の優勝を手にした。
「鈴木選手と2人で走ることでモチベーションが高まり、よい戦いになった」とマルセル。
2位の鈴木は、「マルセルには負けたが、100%良いレースができた」と話した。「トラックに入った時には、腕が残っていなかった」と言い、ドバイの疲労がありながらも、今シーズンを締めくくる大分国際で力を出し切る走りを見せた。
今大会初出場のダニエルは終盤に第2集団から抜け出し、3位を確実にして競技場に入ってきた。

マラソンワールドカップ日本代表の切符3枚のうち、1枚は、鈴木の手に渡ることに決まった。残りの2枚を誰が獲るかが、第2集団の日本人選手たちの勝負になった。
9人の選手が次々と競技場に入ってきた。最初にエレンスト・ヴァンダイク選手(46歳、南アフリカ)、その後ろに西田宗城選手が続いている。ドバイの世界選手権では出場種目で予選落ちとなり、結果を残せなかった渡辺勝選手(27歳)が3番手、4番手付近から前へ出ていく。山本浩之選手も加速している。トラック勝負で順位を上げた渡辺が4位(日本人2位)、山本が6位(日本人3位)を獲得、マラソンワールドカップ日本代表となった。

結果からみると、「ドバイ組」の選手が実力差をみせつけたレースだった。
「国内組」に寄せていた私の勝手な期待は、20キロ過ぎに消えてしまった。

マラソン女子、世界記録を更新したマニュエラ・シャー選手

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女子2位の喜納翼選手

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女子は高速レース、マニュエラが世界記録を更新

マラソン女子(T34/T53/T54)は、マニュエラ・シャー選手(34歳、スイス)が、1時間35分42の世界新記録で優勝した。喜納翼選手(29歳)が2位(記録1時間35分50)、スザンナ・スカロニ選手(28歳)が3位(記録1時間36分26)に入った。

(取材・撮影:河原レイカ)