優勝したマルセル・フグ(©東京マラソン財団)

東京マラソン2021(3月6日)の車いす男子は、マルセル・フグ(スイス、36歳)が1時間22分16で優勝した。2位に鈴木朋樹(トヨタ自動車、27歳)1時間29分12、3位に西田宗城(バカラパシフィック、37歳)1時間29分55が入った。

車いす女子は2名が出場し、喜納翼(琉球スポーツサポート、31歳)が1時間40分21で優勝。土田和歌子(ウィルレイズ、47歳)は1時間44分58だった。

東京マラソンは、東京都庁前をスタートし、新宿から東へ、靖国通り、外堀通りを飯田橋、神保町方面へ進む。コースの特徴は、スタートから序盤5キロの下りだ。

競技用の車いす(レーサー)は、選手たちが両手を使ってレーサーのホイールに付いたハンドリムを押し出すことで車輪を回転させて走る。下りの傾斜は、この押し出す動き(漕ぐ動作)をしなくても車輪が転がり、スピードが上がる。上半身の体重や体幹を活かして下りを生かした走りができると、集団の中から先頭に抜け出し、後続の選手との差を広げることができる。

マルセル・フグは、2021年夏の東京パラリンピックで、トラック3種目(800m、1500m、5000m)とマラソン(42.195キロ)の計4つの金メダルを獲得。同年11月に大分市内で開催された大分国際車いすマラソンでは世界新記録(1時間17分47)をマークし、圧倒的な強さを見せつけた。銀色のヘルメットを被っていることから、「銀色の弾丸」というニックネームがついているが、「銀」を「金」に変えてもいいと思われるほど、車いす陸上・男子の「絶対王者」だ。

22年の幕開けのレースと位置付けられる東京マラソンは、絶対王者のマルセルがどのような走りを見せるのか。また、日本人選手の中で誰が、どこまでマルセルの走りに付いていけるのか。あるいは、マルセルと互角に走ることができるのかが見どころだった。

レースはスタート直後に動き、絶対王者マルセルが独走態勢に入った。マルセルは長い下りで勢いよく加速しながら、時折、後続の選手の有無を確認。5キロ地点のタイムは、マルセル8分55、2位集団先頭の鈴木9分09と14秒差だった。

2位の鈴木朋樹(©東京マラソン財団)

2位集団から一人、前へ出たのは、マルセルが世界記録を樹立した昨年の大分で2位に入り、車いすマラソンの日本新記録(1時間18分37)を出した鈴木朋樹だった。

鈴木は下りが終わり、秋葉原に出た10キロ過ぎから単独2位でマルセルを追いかけたが、10キロ地点で2人の差は50秒差に開いていた。

今年のコースは道路工事の影響で一部変更があった。上野広小路で新たに設けられた最初の折り返し地点があり、日本橋、浅草方面へ向かう。隅田川の蔵前橋を渡り、清澄通りの細かい上り下りを経て、門前仲町の折り返しを過ぎたところが中間地点となった。中間地点通過は先頭のマルセル39分53、2位の鈴木42分12、差は2分19秒とさらに開いた。
マルセルが序盤から2位以下の選手との力の差を示す展開となった。

レースの後半は、先頭を走るマルセルが自身の世界記録を更新するか。あるいは大会記録(1時間21分52)を更新するか否かが注目された。

しかし、レース当日は、風があった。

複数の選手で縦一列に並び、列の先頭を交代して走る「ローテーション」を組んで走ると前の選手が風避けとなるが、単独で走る場合は身体に風を受けて体力を消耗する。

マルセルは一定のリズムを刻んでレーサーを漕いでいたが、30キロ過ぎになるとその動作に若干疲労が滲んで見えた。大会記録の更新はならなかった。

マルセルは、レース後の記者会見で「結果には満足している。調子はよく、なんとか自分のペースを管理して、東京の街を走り切ることができた」と振り返った。レース中、大会記録更新などは意識せずに走り切ったと話した。

2位の鈴木は「マルセルとの実力差は感じていたが、前半で置いていかれてしまい、気持ち的にきつかった」とコメント。今後の課題として、最高速度(トップスピード)を上げることや、レースの後半のための持久力を備えることを挙げた。今年は、東京マラソンのほか、海外で開催されるメジャーマラソンにも出場する予定。また、今秋に開催予定のアジアパラ競技大会のトラック種目でのメダル獲得を目指すと意気込みを示した。

車いす女子・優勝した喜納(右)と2位の土田

◆女子優勝の喜納 「想定よりハードなレース」

車いす女子・優勝の喜納は、「想定していたよりハードなレースだった」と振り返った。レース中に、風を強く感じたという。今後の出場レースや具体的な目標はまだ立てていないが、例年秋に開催される大分国際車いすマラソンで自身が持つ日本記録(1時間35分50)が更新ができるように調整していきたいとした。

2位の土田は、レースの途中で転倒したが自身で起き上がり、ゴールまで走り切った。「走力や持久力などまだ足りない部分があると感じたが、次につながるレースになった」と話した。

(取材:河原レイカ)(写真:©東京マラソン財団)