写真は、皇后杯 第30回記念日本女子車いすバスケットボール選手権大会にて撮影。
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日本車いすバスケットボール連盟(JWBF)は9月15日、「クラス分けに関する説明会」をオンラインで開き、国際車いすバスケットボール連盟(IWBF)が進めていた選手資格についての再評価結果などについて説明し、報道陣からの質問に答えた。

同競技は1月に、障害クラス分け問題のため、東京パラリンピックの実施競技から除外される可能性を国際パラリンピック委員会(IPC)より警告されていた。これを受けて、IWBFは選手資格の再評価を実施。その結果についてJWBFは9月8日に明らかにしていた。再評価の対象となった日本人選手は全14名で、うち女子選手8名中1名(氏名非公表)がパラリンピックの出場資格要件を満たさなかった。この結果により不適格となった1名の女子選手は東京パラリンピックなどIPCやIWBFが主催する国際大会には出場できなくなった。また、男子選手6名は全員が資格を満たした。

15日の会見に出席したJWBFの玉川敏彦会長は、再評価の結果について、「東京パラ出場を目指し練習していたのに、不適格とされた選手の心痛は計り知れない。仲間として、結果は残念。国内で選手活動が継続できるようサポートしたい」と当該選手を思いやりつつ、「特にパラ競技で最も大切な価値観である公平さと機会の平等はルールで担保されている。ルールの厳格さが損なわれることはあってはならない」と、IPCの判定を尊重した。また、「何よりも選手の尊厳が守られるべきこと」とこれ以上の選手の個人情報は公表せず、報道陣にも理解を求めた。

■「障害」のとらえ方に相違

上記の結果に至るまでの経緯として、まず、車いすバスケットボールには、「持ち点制」という特徴的なルールがある。選手は自身の障害の種類や程度により、最も重い1.0から最も軽い4.5まで0.5点刻みで8つのクラスに分けられ、「クラス分け」の数字がそのまま選手の「持ち点」となり、コート上の5人の持ち点合計を14点以下でチーム編成しなければならないというルールだ。

この「クラス分け」はパラリンピック出場に不可欠な要件で、IPCが定める基準に則って競技ごとに各国際競技団体が選手を審査している。しかし、今年1月31日、IPCは衝撃的な内容の発表を行った。IWBFが実施しているクラス分け方法について、特に障がいの軽い4.0と4.5の基準がIPC基準と異なる点を問題視し、IPC基準を順守しない場合は、車いすバスケットボールを東京パラリンピックの競技種目から除外する可能性があること、また2024年のパリ大会からは除外決定と通告したのだ。

IPCでは参加要件となる「障害」を10種類に定めている。そのうち車いすバスケットボールに関わるものは7種類とされるが、IWBFがこれまで行ってきた「クラス分け」にはこの7種類以外の「障害」も含まれていた。つまり、IPCとIWBFで「障害」のとらえ方が異なり、IWBFでは競技の普及を重視し、より広範囲の障害の選手にも参加要件を与えていたという。

ただし、パラリンピックへの参加についてはIPC基準に準じなければならない。現行のIPC基準は2015年のIPC総会で各国際競技団体出席のもとに承認され、2017年1月から施行されている。しかし、IWBFはIPCからの再三の要請にも関わらず対応が遅れ、東京パラリンピック実施22競技のうち車いすバスケットボールのみ基準が順守されないままとなり、上記1月31日の通告に至ったのだ。

■パラリンピック出場を目指し、再評価を実施

この通告を受けて、IWBFは東京パラリンピックに出場する可能性がある各国の4.0と4.5クラスの男女132選手に対してクラス分けの再評価を進めることとなった(フェーズ1)。この動きに、JWBFはすぐに対応した。

JWBFクラス分け部の西川拡志部長によれば、2月1日には緊急理事会にてプロジェクトチームを発足。日本選手で対象となった全14名について、期日までに医学的な書類や検査結果をIWBFに提出。6月18日に14名の再評価結果が届き、12名は適格、2名は保留となり、7月28日には保留だった2名のうち、1名は不適格、もう1名は再度保留の通知があった。そこで、保留の1名について補足資料を提出したところ、8月19日に適格の通知があり、全14名の再評価が終了したという。

不適格となった女子選手はこれまでのIWBF基準では出場資格があったが、今後はパラリンピックをはじめ、IPCやIWBFが主催する国際大会には出場できないことになる。この通知を受け、JWBFは当該選手と協議し、判定を受け入れることにした。

ただし、JWBFは当該選手が国内での競技継続を希望する場合は、「サポートしていきたい」とした。IWBFが今後発表する新たな基準も踏まえた上で、持ち点の見直しなど国内独自のルールについても今後、検討していくとしている。

世界全体では9選手が不適格と判定され、なかにはIPCに抗議を表明する海外選手もいるが、玉川会長は、「JWBFでは再評価結果に対してIPCに見直しを求める意向はない。また、選手の主張は自由。JWBFが個人の発信に対してコメントする立場にはない」とした。

なお、東京パラ開催の可否についてはフェーズ1の再評価プロセスがすべて終了後にIPCが判断することになっており、現時点では再評価対象の選手のうち3名が判定待ちだという。西川部長は、「よい結果が出ることを期待したい」と話した。

IPCではさらに12月末までに、1.0クラスから3.5クラスも含めた全選手についての再評価(フェーズ2)も求めている。JWBFでは対象となる男女30名について書類作成などを進め、すでに約7割の提出は完了している。また、現時点では実施競技から除外されている2024年パリ大会について、IPCは除外を解除する条件として、来年8月31日までにIPCのクラス分け規定に完全に準拠した対策を講じることをIWBFに求めている。JWBFとしてはアンテナを高く張って情報収集しながら、必要に応じてIWBFに提言していく意向も示した。

■男女日本代表チームからのコメント

こうした現状を受け、会見では男女日本代表チームからのコメントも代読された。

・女子代表の岩佐義明ヘッドコーチ

「一人の選手が不適格と通知され、チームとして仲間として残念。真摯に受け止め、東京パラに向けてチームのさらなる強化を進めていく。(大会の)1年延期をプラスにとらえ、ヘッドコーチとして選手が最高のプレーを出せるよう努力する。高さのない日本なので、展開の速いバスケで対抗し、メダル獲得を目指す」

・同 藤井郁美キャプテン

「日本だけでなく、世界にもNE(不適格)となった選手が出たことは同じ選手として、彼らの心情を思うと言葉が見つからない。自分たちの目標に向かってやるのみで、先週から合宿も再開したので、今回の再評価を通った選手で協力し、強化を進めていきたい」

・男子代表の京谷和幸ヘッドコーチ

「1月31日の発表には驚いた。ただし、東京大会への出場、除外された2024年大会での復活のためには、IPCから示された再評価手続きが必要であり、やれることから一つずつやるしかないと気持ちを切り替えたし、選手たちにも伝えた。男子チームとしては1年をレベルアップできる期間として強化を進めていく」

・同 豊島英キャプテン

「今のタイミングでクラス分けの見直しが入ったのは驚いたが、公平・公正を保つために再評価を受けたうえで、来年の大会に臨もうと受け止めた。まずは自分たちが来年に向けて歩み続けることが一番大切。日本男子代表らしいプレーをすることを目指す」

(文・取材:星野恭子)
(写真提供:小川和行)