ボッチャ 日本代表チーム

結束が固い日本代表チーム
結束が固い日本代表チーム

ボッチャとは、白いジャックボール(目標球)に、赤・青のそれぞれ6球ずつのカラーボールをいかに近づけるかを競いあう競技。ボールは、投げる、転がす、蹴りだすことが認められている。投げることができない選手は「勾配具(ランプ)」を使って、自分の意思を介助者に伝えて競技することができる。

パラリンピックでは、重度の脳性まひ者や四肢機能障害者の競技となっており、個人戦(BC1~BC4)と団体戦(Teams BC1/BC2、Pairs BC3、Pairs BC4)がある。
ロンドンパラリンピック日本代表チームを率いる監督・古賀稔啓氏は、「団体戦は、チーム力。面白いことに個人戦で力のある選手が集まったチームが必ず勝つとは限らないんです」と話す。
チームの力を発揮するために必要なもの、それは一体、何だろうか?
2011年に開催されたボッチャのワールドカップ(Boccia CPISRA WorldCup Belfast 2011)で、日本代表チームは団体戦(Teams BC1/BC2)で2位の成績をおさめた。
古賀氏は、この大会で、団体戦は選手の力がかみあうと、選手個人が持っている力以上の力を発揮すると実感した。選手の力がかみあっているときは、試合のなかで一人の選手がミスしても、他の選手が助け、補うことができる。
逆に、選手の力がかみあわないと、一人の選手のミスが他の選手のミスにつながり、連鎖していく。選手同士が掛け合う声が小さくなり、チーム全体の勢いもなくなってしまう。ワールドカップ2位の成績は、選手の力がしっかりとかみあい、チームが勢いに乗った結果だという。
つまり、団体戦の勝敗は、選手たちが一体となるチームをいかに作っていくかに掛っている。

■エースの廣瀬

力強い投球をするエース-廣瀬
力強い投球をするエース-廣瀬

ロンドンパラリンピック日本代表として団体戦(Teams BC1/2)に出場するのは、廣瀬隆喜選手、杉村英孝選手、秋元妙美選手、柴山友里子選手の4人。
廣瀬隆喜選手(BC2、27歳)は2009年のボッチャのアジア大会(Asia&South Pacific Championships)で、個人戦で優勝した実力をもつ。しかし、この優勝以降、好調を維持してきたわけではなかった。
今年5月、日本代表選手の練習で、廣瀬はボールの握り方を試行錯誤していた。緊張すると親指が内側に入り、ボールにひっかかってしまうことがあったからだ。親指のひっかかりを改善するため、古賀監督は、人指し指を中指へ近づけて握る方法を提案。親指と人指し指の間を開けることで、親指からボールを離れやすくしようという考えだった。
もう一つ、廣瀬が心掛けていたのは、腕の振りを鞭のようにして投げること。緊張して体の動きが硬くなると、腕の振りも小さくなってしまう。鞭のように腕を大きく振ることで、力強いボールを投げようと練習していた。
廣瀬は、日本代表チームにおいて、いわば“エース”のポジションだ。団体戦をともに戦う秋元妙美選手(BC1、34歳)は、「廣瀬君の調子がいいと、チーム全体、みんなが盛り上がってくるということが、今までの大会でありました。彼がエースとして光ってくれたらという思いがあります」と話す。

チームのムードを意識する秋元
チームのムードを意識する秋元

チーム全体の雰囲気をみて、自分の役割をムードメーカー役だと考えているのが秋元。試合の中でチームが波に乗れていないと感じたとき、どうしたら波に乗れるか、波をつくれるかを考えている。練習試合でも、秋元は真っ先にチームメイトに声をかけていた。古賀監督いわく、秋元は「影の指令塔」だ。
ただし、長時間にわたって声を出して話をすることは、秋元自身の体力を奪うことにもなる。試合を戦い抜くにはスタミナを保つことも大切だ。
秋元は、声をかけた相手の気持ちが盛り上がるような内容を、短い言葉で、端的に伝えることを意識しているという。「一人一人の選手に自信がないと、チームが沈んでしまいます。自信をもってできるように声掛けています。団体戦は戦略もあるんですけど、それ以前に、チームの雰囲気の盛り上がりが大事だと思います。日本チームの一員として、チームの雰囲気づくりをするのが私の役割だと思っています」と話した。

■キャプテン杉村、寄せの柴山

チームを引っ張るキャプテン杉村
チームを引っ張るキャプテン杉村

2010年12月に中国で開催された広州アジアパラゲームスから日本代表選手として海外遠征に加わるようになったのが杉村英孝選手(BC2,30歳)。
古賀監督は、杉村について「伸び盛りです。安定感がありますし、“ここにボールを止める”という場面で、だいたい止めることができます」と評価する。
2012年5月4日から7日までロンドンで開催されたパラリンピックの前哨戦ともいえるテストマッチ(Boccia Invitational London 2012)で、古賀監督は、杉村にキャプテンを任せた。それまで日本代表チームは、エースの廣瀬がキャプテンも兼ねていたが、廣瀬にはエースとしての役割に集中してもらおうという考えだった。
キャプテンを任された杉村は、「チームが一つにならないといけないので、試合中での声かけやコミュニケーションを一番に心掛けています」と話す。
日本代表チームのメンバーは、4選手とも個性が前面に強く現れるタイプではなく、どちらかといえば大人しい。そのため、杉村は、自分が先頭を切って声を出し、チームをまとめたいと考えている。
杉村の課題は、緊張すると、体の軸がぶれてしまうことだ。しかし、数カ月前と比べるとボールの力強さが増してきた。安定感に力強さが加わってきている。

寄せる技術が優れている柴山
寄せる技術が優れている柴山

柴山友里子選手(BC1,39歳)は、ロンドンに向けた代表合宿のなかで、投球のフォームを改善してきた。
以前は、遠くに投げようとすると腕だけで投げてしまい、体全体を使って押しだすようなダイナミックな投球ができなかった。この点を改善するため、古賀監督は、車椅子のフットレストに置いていた足を床に降ろしてみることを提案した。足を床につけることで、踏ん張りが効くからだ。さらに古賀監督は、柴山のシューズの靴底にウレタンを貼って厚くした。これにより、柴山の足はしっかりと床に届き、また、シューズは軽さも保つため、長時間履いていても疲れない。

柴山は、脚への体重移動ができるようになったことで、それまでできなかった力強い投球ができるようになった。しかし、これは、一方で、ボールを投げたときの距離の感覚が変わることでもある。つまり、投球したとき、自分の想定していた距離と、実際にボールが届いた距離にずれが生じることになる。その感覚のずれは、自分自身で再度、調整するしかない。ロンドンパラリンピックが迫った8月、柴山は距離感の調整に取り組んでいた。
「チームのなかで、最後の最後まで、ボールを寄せていくのが自分の役割だと思います」と柴山。
チームメイトから「ここにお願い」と言われたときに、「任せて」と自信をもって言えるような状態へもっていくつもりだ。ロンドンでは、狙いどおりの“寄せ”の実現を目指している。

■チーム一丸となって戦う

ロンドンが楽しみ-と語る古賀監督
ロンドンが楽しみ-と語る古賀監督

「ロンドンパラリンピックの日本代表チームは、2位に入ったワールドカップのときと同じメンバーです。選手だけでなく、スタッフも同じです。とても良い雰囲気ですし、課題もずいぶん克服して、仕上げてきています」。
古賀監督は、こう語る。
日本代表チームの特色は、対戦相手チームの弱点をついたジャックボールの位置をとれることだ。
ボッチャは、最初の1球となるジャックボールをどこに置くかが大きな意味をもつ。ときには、最初の1球が勝負を決めてしまうことさえある。
自分たちの得意な位置にジャックボールを置く戦術もあるが、日本代表チームは、相手チームにあわせてジャックボールの位置を臨機応変に変えることができるという。その強みを生かし、勝利をつかむため、ロンドンで対戦するチームの過去の試合のビデオなどを見て、戦術を練っている。
日本チームは、現在、国際ランキング5位。団体戦の予選グループで対戦するのは、国際ランキング4位のスペイン、12位の香港。予選の目標はスペインと香港に勝ち、グループ1位で予選通過することだ。

「ロンドンは、楽しみです」と古賀監督。
選手とスタッフが1つにまとまったチームが、コートに立つ日は近い。

取材・撮影/河原由香里

※BC1~4は、クラス分けを示す。
BC1:電動車椅子使用。車椅子操作不可で、四肢・体幹に麻痺がある脳性麻痺者か、下肢で車椅子操作可能な脳性麻痺者(足蹴りで競技)。
BC2:片手または両手で車椅子を駆動。上肢で車椅子操作が可能な脳性麻痺者。
BC3:投球不可のため、介助者によりランプを使用して競技を行う者(脳性麻痺以外の障害も含む)
BC4:BC1/BC2と同等の機能障害がある脳性麻痺以外の重度四肢麻痺者。