葭原滋男さん(左)、タンデムの前方に乗るパイロットの大木卓也さん(右)

葭原滋男さん(左)、タンデムの前方に乗るパイロットの大木卓也さん(右)

世界の舞台で活躍している日本人の視覚障害者アスリートは少なくないが、レジェンドと呼ばれるのにふさわしい一人が、葭原滋男さんだ。葭原さんは、1996年のアトランタパラリンピックでは陸上の走り高跳びで銅メダル、2000年のシドニーパラリンピックでは自転車競技の1kmタイムトライアルで金メダル、スプリントで銀メダルを獲得。続く2004年のアテネパラリンピックでもスプリントで銀メダルを獲得している。その後、ブラインドサッカー日本代表選手にも選ばれた経歴の持ち主だ。
54歳となった今、葭原さんは、再び、自転車競技で、2020年の東京大会出場を目指すと決めた。
なぜ、しばらく離れていた自転車競技に挑戦するのか。話を聞いた。

Q:なぜ、再び、自転車競技に挑戦するのですか?

2020年の東京パラリンピック開催が決まった時から、私自身も何らかの形で関わりたいと考えていました。
もしかしたらまだ選手としても関われるのではないか?。ブラインドサッカーも頑張ってきましたが、日本代表選手に招集されたのは2011年が最後。国内のチームでプレーを続けながら、日本代表に再び招集されるよう日々トレーニングには励んでいますが、2020年に向けて、もう一度、選手として挑戦することを考えた時に、自転車競技が候補に挙がってきたんです。

以前お世話になっていた実業団チームのラバネロに再び指導を仰ぎ、一緒に自転車に乗るパイロット(二人乗り自転車であるタンデムの前方の乗り手)は、パラリンピックに向けて汗かいた仲間が再び、一緒に挑戦してくれることになりましたし、競技に挑戦しやすい環境ができました。

Q:自転車競技を離れていた期間の影響はありませんか?

2004年のアテネパラリンピック以降は、自転車に乗る機会がほとんどなくなってしまいました。年齢も重ねている分、スタミナは若干、落ちましたね。
一方で、実際に自転車に乗ってみて、乗り方の良し悪しや苦しさについては、自分自身がよく分かっていると確認できました。「この乗り方ではダメだ」「このあたりは改善しないといけない」という点は、すぐに分かります。センスは衰えていません。
あとは、いかに短期間で世界で戦えるレベルにまで戻していくかが課題だと考えています。
アテネパラリンピックの頃と比べると、スタミナ、切れ味、コンビネーション、筋力など、全般的に落ちているところはありますが、これから戻していきたいと思っています。

Q:現在は、どんな練習をしているのですか?

日常的には、自宅に置いてある固定バイクで練習しています。
私が自転車競技で使うタンデム(2人乗り自転車)は、道路交通法で一般公道で乗ることを禁止されています。現在は、17の自治体が条例で解禁しているのですが、私が住んでいる東京都では、まだ解禁されておらず、一般公道でタンデムには乗れません。自転車に乗って練習する場合は、関東近郊の練習場などに出かけなければなりません。

Q:2020年の東京パラリンピックを目指して、どのような取り組みをしていきますか?

まず、パラリンピックに出場するには、出場権利を獲得しなくてはなりません。国際大会に出場してポイントを獲得することが、出場権獲得につながります。その点を念頭に置いて考えないといけないと思っています。
2020年までの時間を考えると、2018年には世界で戦えるレベルに戻しておかないといけません。そのためにも、今年一年で、自分の状態をどこまで戻せるか、高められるかが勝負だと考えています。今年が勝負だと考えています。
2020年に向けては、タンデムで一般公道を走れる地域を増やす活動も力を入れていきたいと思っています。東京都江東区でタンデム自転車等を制作している紀洋産業さんと一緒に、タンデム自転車で街を走りたい!を合言葉に「タンデム自転車交流協会」という活動をしています。私の場合、タンデムに乗って練習するためには、一般公道を走れる自治体や自転車競技施設まで出かけなくてはなりません。視覚障害者がサイクリングを楽しむためには、そういう場所に移動しなければできないのが現状です。自宅からロード練習にも行きたいし、普通に買い物にもタンデムで行きたい。
まだ、自転車に乗ったことがない視覚障害者にタンデムの面白さを知ってほしいという点でも、一般公道で走れる場所を増やしたいです。タンデムサイクリングが、視覚障害者だけでなくお年寄りや子供などもっとファミリーに身近なスポーツになってほしいと思っています。

Q:2020年東京パラリンピックへ向けて、抱負をお願いします。

2017年は、タンデムへの本格復帰の勝負年です。競技大会があれば、できる限り出場していきたいです。
また、タンデムの一般公道走行解禁につながるイベントがあれば、積極的に協力したいし、タンデムに乗れる機会があればどんどん乗りたいと思っています。2020年に向けて、自分にできることがあれば何でもする。そういう気持ちで臨んでいます。

(取材・撮影:河原レイカ)