競技用の義足を手にしている義肢装具士 藤田悠介さん

競技用の義足を手にしている義肢装具士 藤田悠介さん

手や足に障害のある人は、義手や義足をつけてスポーツをします。
映像や写真で、義手・義足を見たことがあるという方も多いでしょう。
しかし、義手・義足を触ってみたり、じっくり観察した経験のある方は少ないかもしれません。

「もっと知りたい!」という方に向けて、
義足・義手をつくる専門家・義肢装具士に、素朴な疑問をぶつけていきます。

【第1回】義足は、どんな構造になっているのですか?

質問
義足を初めて見ます。いろいろな種類があると聞いたのですが、
どのような種類があるのでしょうか?
また、どのような部品(パーツ)からできているのでしょうか?
詳しく教えてください。

■どの位置で切断しているかで、義足の種類が決まる

分かりやすく言うと、どの位置で足を切断しているかによって、義足の種類が決まります。
足首で切断している人は「足根義足(そっこんぎそく)」
膝下で切断している人は「下腿義足(かたいぎそく)」

下腿義足

下腿義足

膝関節で切断している人は「膝離断(ひざりだん)」
膝上で切断している人「大腿義足(だいたいぎそく)」
それよりも上の股関節付近で切断されている方が使う
「股義足(こぎそく)」があります。

大腿義足

大腿義足

股義足

股義足

義足は、足の切断部分(断端)に断端袋という袋を被せたり、
シリコーン製の袋(ライナー)を被せたうえで装着します。
密着させるため、何もつけずに装着する場合もあります。
それでは、まず、大腿義足をじっくり見てみましょう。

■義足の基本的な構造

大腿義足の構造

大腿義足の構造

(1)ソケット

義足の上のほうから、切断した足(断端)を入れるところです。
主に「吸着式」「ライナー式」があります。

「吸着式」はバルブが付いていて、直接、足を入れているタイプです。
今、主流になっているのが「ライナー式」です。
ややこしいことに、ライナー式の中にもピン式と吸着式があります。

ライナー式でピン式は、ピンのロックを解除しないと脱げないようになっています。
脱げる心配がないので安心ですが、ピンを中心に義足が回ってしまうというデメリットがあります。

一方、吸着式は、圧力で止めていますので、義足が回る心配がありません。
ただし、こちらは切断した足と義足とを圧力でとめていますので、
痩せたり太ったりすると圧力が効かず、吸着できなくなってしまいます。
どちらが良い悪いというものではなく、使う方の好みに依ります。

ソケットを上から見たところ

ソケットを上から見たところ

(2)コネクター

ソケットとパイプ(チューブ)をつなぐところです。
大腿義足の場合は、足を膝上で切断している人の義足ですので、
コネクターの位置が重要になります。
コネクターの位置は、使う人の体重をしっかり支えられること、
そして、義足の動かしやすさを意識して決めています。

(3)ターンテーブルと膝継手(ひざつぎて)

ターンテーブルは、あぐらをかけるようにする部品と考えたらよいでしょう。
義足に靴を履かせるときなど、義足の足部を内側に引き寄せられるようになります。
ただし、義足な長さによってターンテーブルをつけると邪魔になる場合はつけないこともあります。
膝継手(ひざつぎて)は、ターンテーブルの下につけて、膝関節の機能をするものです。

ターンテーブル

ターンテーブル

ターンテーブルをつけていない義足(手塚圭太選手)

ターンテーブルをつけていない義足(手塚圭太選手)

(4)足部

地面につける足の部分です。
足部の大きさは、義足を使う人の体重や活動の頻度によって決まります。
足部は、シンプルなものから、機能性を重視したものまでさまざまな種類があります。

足継手(つぎて)とは足首の機能を担う部分です。
足を一方向に動かせたほうがいいという考えで生まれた「短軸足部」。
もっと動かせたほうがいいという考えで生まれた「多軸足部」があります。
多軸足部には、ボール状の部分が入っているようなものもあります。
さらに動けるようにしたいという考えで生まれたのが、「カーボン足部」です。
短軸か、多軸か、カーボンかは、使う人に依って決まります。値段はカーボンが一番、高額です。

短軸足部

短軸足部

カーボン足部

カーボン足部

■陸上競技用の義足は、カーボン製の板バネがついている

陸上競技用の義足も、基本的には日常生活用の義足と構造は同じですが、
コネクターの下に板バネがつきます。板バネの長さは、身長に依って決まります。

下腿義足の場合は、ソケットの横にコネクターをつけて板バネをつけています。
大腿義足の場合は、ソケットの下にコネクターをつけて板バネをつけます。

板バネの素材はカーボンで、何層にも積層になっており、厚さがあり、強度があります。
板バネの形状と硬さによって、地面に義足をつけて反発した時の瞬間的な力の大きさや、
力の伸びは違ってくると思います。

競技用の義足では、ソケットと板バネをつける角度を調整することがあります。
「足を踏み込んだ後の反発が足りない」など、選手から使ってみた時の感想を聞いて調整します。
ただ、ソケットと板バネを付ける角度は、大会前までに調整を済ませているので、
大会当日に義肢装具士が何かを調整することはほとんどありません。
ちょっとした角度などは、トップレベルの選手は、自分で調整できる人がほとんどです。

監修:義肢装具士・臼井二美男
取材協力:義肢装具士・藤田悠介
公益財団法人 鉄道弘済会 義肢装具サポートセンター

企画編集:河原由香里
イラスト:前川亜希子