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ブラインドサッカー国際親善試合・さいたま市ノーマライゼーションカップが開催されたサイデン化学アリーナ。
親子連れやサッカーファンたちが陣取っている2階の観客席は、静けさを保っていた。
ブラインドサッカーは、選手たちがボールの音を聴いてプレーをする。
選手たちのプレーを妨げないように、音を立てないようにして観戦するのが観客のマナーだ。

日本代表とIBSA世界選抜の対戦。
国際視覚障害者スポーツ連盟(IBSA)は、ブラインドサッカーの女子選手を対象にしたトレーニングキャンプを、日本大学文理大学キャンパス(東京都)で2月21日、22日に開催し、10カ国27人の選手が参加した。
IBSA世界選抜チームは、トレーニングキャンプの参加者から構成されている。

日本代表10番の菊島宙(きくしまそら)選手(16歳、東京都立八王子盲学校)が、素早いドリブルでディフェンスを交わし、角度をつけたシュートを放った。跳ね上がったボールは、ゴールポストを掠めたが、枠の外に逸れた。
菊島が再び、ボールを確保すると、IBSA世界選抜の14番・ドイツのカタリナ・クーンラインが体を寄せていく。
二人が向き合うと、身長153センチの霧島の頭の位置は、カタリナの顎の下だ。

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アイマスクをつけている選手たちは互いの姿が見えないが、気配や声から相手の様子を察知する。
背の高い壁が立ちはだかるのを感じたのか、右方向からドリブルで攻めていた霧島が、瞬時に切り替えした。
左側に空いたスペースを一気に前進、キーパーとの距離を詰めて、鋭いシュートを放った。
「おぉ…」
沈黙を守っていた客席から、声が漏れた。
胸の中に沸きあがった感情を抑えきれなかった声だ。
声を出そうと意識しているわけではない。驚きや興奮が思わず漏れたのだろう。

「一発で、空気を変える」
今大会のポスターに使われているキャッチコピーの言葉だ。
菊島が放った一発は、客席の空気を変えた。

菊島は、前半3得点、後半6得点の計9得点をあげて、MVPを獲得。
選手交代で霧島が外れた時間帯、日本代表の工藤綾乃選手も1ゴールを決め、日本代表は10対0で勝利した。

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(取材・執筆:河原レイカ)
(撮影:小川和行)