早春の都大路5区間を車いすの走者でつなぐ「第27回全国車いす駅伝競走大会」が
3月13日に京都市内で開催され、東京チームが初優勝した。2位の岡山チームは、初めての表彰台。
3位は地元・京都Aチームが入った。
この大会は、京都国際会館前をスタートし、西京極運動講演をゴールとする21.3km、
5区間(1区6.4km、2区2.8km、3区2.4km、4区5.8km、5区3.9km)をチームで走る。
東京は、第1区に鈴木朋樹選手(21歳)を起用。
鈴木は、2015年のパラ陸上世界選手権の日本代表選手で、成長著しい若手の一人。
トラックの中長距離(800m、1500m)をメインとしているが、国内ではマラソンでも上位に入る
実力の持ち主だ。
鈴木は、レース前日、「自分の役割は、長野の樋口政幸選手(昨年・第1区区間賞を獲得)を
倒して、区間賞を獲ることです」と意気込みを語っていた。
しかし、今年の第1区は、マラソンでリオ・パラリンピック出場をねらう
大阪の西田宗城選手(31歳)が先頭に飛び出し、前で引っ張る展開。
跨線橋の下りを活かして前に出た西田を、福岡チームの山本浩之選手(49歳、
リオ・パラリンピック車いすマラソン日本代表の推薦内定選手)が追いかけた。
鈴木は、西田、山本から離され、長野の樋口政幸選手(37歳)についていくのが
精一杯となり、区間賞争いに加わることはできなかった。
3着の結果で、第2区につないだ。
「結果的に3着でしたけど、個人としては、惨敗だったと思います。
まったく満足していません」と、鈴木は悔しさをにじませた。
東京の第2区の花岡伸和選手(40歳)は、2012年ロンドンパラリンピック日本代表選手。
陸上の現役は退いており、「ここ一カ月ほど体を動かせていないです。
もう、みんなのお手本の走りはできなくなってきてますね」と話していた
ものの、前にいた2人の走者を一気に抜いてトップに躍り出た。
昨年に続き、第2区・区間賞の走りをみせた。
チームメイトの間でも「予想以上」と言わせる走りをみせたのが、
東京・第3区の嶋﨑康介選手(17歳)だ。
「2区の花岡さんが後続をすごく離してきてくれたので、自分はその差を
縮めないようにしようと思って走っていきました。
『大きく、大きく、漕ごう』と思って、漕ぎました。
2位のチームとの差が1分ほど開いたと聞いて驚いています」と嶋﨑。
第3区の区間順位で4位に食い込み、優勝に大きく貢献した。
17歳の頑張りに刺激を受けたのは、第4区の吉田竜太選手(34歳)だ。
「嶋﨑君が1位で入ってきたので、気合が入りました。
差を広げて第5区につなぎました。
今回は、優勝のチャンスをものにできてよかったと思います」。
マラソンでリオ・パラリンピック出場を狙っている吉田は、
日本代表の選考レースとなった今年2月の東京マラソンでレーサーのパンクがあり、
上位で競り合うことができなかった。
今大会、第4区の区間記録更新に迫る走りで、区間賞を獲得。
「自信を持って、次の選考レースとなるロンドンマラソンに
むかっていけると思います」と話した。
「私は20年近く出場しているんですが、やっと悲願の優勝を獲れました。
本当に、最高に、嬉しいです」
東京の第5区・アンカーを務めた渡邊敏貴選手(48歳)の目は、潤んでいた。
東京チームメンバーでは最年長、ベテランランナーの一人だ。
「チーム内に渡邊さんを優勝させたいという声があった」と伝え聞き、胸が熱くなった。
昨年の2位と、今年の優勝とは、「感動の大きさが違います」と話した。
■佐藤がトラックで強さを発揮し、岡山が2位
第5区・岡山の佐藤友祈選手(26歳)は、京都Aの澤村聡一選手(39歳)に競技場の手前で抜かれ、
3番手で西京極陸上競技場のトラックに入った。
しかし、佐藤は、2015年のパラ陸上世界選手権(男子T52クラス)400mの金メダリスト。
トラックでの競り合いは強かった。
「競技場の手前で抜かれて、ちょっと動揺してしまったんですが、
最後はトラックで持ち味の加速を活かして追い抜くことができてよかったです。
2位になれて非常に嬉しいです」と話した。
岡山の主将・松永仁志選手(43歳)は「ラジオでレースの経過を聞いていて、
競っていて2位に入ったと聞いて、ちょっと(目が)うるっときちゃいました」と喜びを語った。
今年は、洞ノ上浩太選手(福岡)、渡辺勝選手(福岡)、西勇輝選手(東京)ら
有力選手が海外遠征で不在となったため、昨年・優勝の福岡チーム、2位の東京チームともに
昨年とは異なるメンバーで臨むかたちとなり、経験の浅い選手や若手を起用する機会になった。
陸上は、基本的に個人種目だが、駅伝は「チーム」の種目。
任された区間の個人の走りが、チーム全体の走りに影響する。
役割を与えられた選手が、「チーム」を意識して走ることで期待以上の走りをしたり、
逆に、チームの成績を意識することが焦りやプレッシャーにつながることもある。
今大会で味わった勝利の喜び、負けた悔しさを糧に、各選手が今後、どのように力を伸ばすかが楽しみだ。
【成績】
■優勝 東京チーム 記録45分54
(1区:鈴木朋樹、2区:花岡伸和、3区:嶋﨑康介、4区:吉田竜太、5区:渡邊敏貴)
■2位 岡山チーム 記録49分16
(1区:松永仁志、2区:山本一夫、3区:高原圭司、4区:生馬知季、5区:佐藤友祈)
■3位 京都Aチーム 記録49分17
(1区:西原宏明、2区:佐野純一郎、3区:用田竹司、4区:寒川進、5区:澤村聡一)
■区間賞
1区(6.4km)西田宗城(大阪)11分27
2区(2.8km)花岡伸和(東京)6分43
3区(2.4km)用田竹司(京都A)6分46
4区(5.8km)吉田竜太(東京)10分56
5区(3.9km)佐藤友祈(岡山)9分08
1区区間賞の西田宗城選手、4区区間賞の吉田竜太選手は、
リオ・パラリンピック車いすマラソン日本代表をねらっている。
ともに、次の日本代表選考レースとなるロンドンマラソンに出場予定。
今大会・区間賞獲得の走りは、状態の良さの裏付けといえそうだが、
マラソンの国際大会でどのようなレースをするのか、注目したい。
【取材・撮影:河原由香里】