男子66kg級、瀬戸(左)と藤本(右)

男子66kg級、瀬戸(左)と藤本(右)

柔道の聖地、講道館(東京都文京区)で3月10日、「東京国際視覚障害者柔道選手権2019」が開催された。
パラリンピックメダリストらトップ柔道家など、世界15カ国から60選手以上がエントリー。
体重階級別に男子7階級、女子は6階級が実施され、約80試合で頂点を目指し熱戦が展開された。

日本からは昨年12月に行われた全日本視覚障害者柔道大会の上位進出者から、男子は6階級に10選手、女子は全6階級に9選手が出場。
世界のライバルたちに果敢に挑み、計5階級(男子3、女子2)で優勝を果たした。

なかでも、男子66キロ級の決勝は見ごたえある一戦だった。5カ国7選手によるトーナメント戦を勝ち抜き、決勝に残ったのは期待の若手、瀬戸勇次郎(福岡教育大、19)と、3連覇を含むパラリンピック5大会出場のベテラン、藤本聰(徳島視覚支援学校教員、43)の二人。昨年12月の全日本大会決勝と同一カードで、この時は瀬戸が藤本を下し、初優勝を果たしている。

試合は序盤から、得意の巴投げなど積極的に技を仕掛ける藤本に対し、瀬戸がうまく体をひねってかわすシーンが何度も見られ、両者一歩も譲らない攻防が続いた。緊迫のまま4分間が経過し、試合はゴールデンスコア方式による延長戦に突入した。

男子66kg決勝

男子66kg決勝

延長戦でも白熱のせめぎ合いが展開されたが、積極的に技を掛けにいった藤本を、瀬戸がうまく返して技ありを奪い、勝利をつかんだ。約7分にも及ぶ熱戦だった。

瀬戸は4歳で柔道と出会ったが、視覚障害者柔道を始めたのは約2年前。
今大会が初の国際大会で、「海外選手との対戦で経験を積むこと」を目標に置き、海外勢に2連勝したうえ、元世界王者の藤本にも“2連勝”とした。

「嬉しいです。体力には余裕がありました。決勝はとても楽しく、全力を出し切れました」と笑顔で語った。藤本が繰り出した再三の巴投げは読んでいたわけでなく、「毎回、あぶね~と思いながら、かわしていました。今日は体がよく動いた」とし、勝因には「粘り」を挙げた。

経験豊富な藤本対策は、「以前、うかつに足を出して投げられたことがあったので、積極的に行きながらも慎重さを残しておかないと、と考えていた」と振り返った。東京パラリンピックでの活躍も期待されるが、出場用件である国際ポイントでは、「まだ藤本さんを追いかける立場。海外でしっかり勝ち、まずは出場権の獲得。(東京パラの目標は)そのあとで考えたい」と話すにとどめた。

男子66kg級 藤本

男子66kg級 藤本

一方、“2連敗”を喫した藤本は、全日本大会から3カ月ぶりの対戦で瀬戸の成長を実感したと明かしたが、「(自分も)これで終わりじゃない。瀬戸くんがいると、一緒に強くなれる気がする。緊張感がなければ、強くなれないから。(瀬戸には)もっともっと強くなってほしいし、私も乗り越えたい。精進して、次は勝ちます」と巻き返しを誓った。

次の対戦が楽しみなライバル関係に注目したい。

■東京パラでの活躍に期待!

男子100キロ超級も欠場者が出て日本人同士の対戦となったが、パラリンピックロンドン大会で金、リオ大会で銅獲得のエース、正木健人(エイベックス、31)が佐藤和樹(札幌・新陽高教員、25)を下し、優勝した。3分30秒で佐藤に3つ目の指導が与えられ反則負けとなる形での勝利に正木は、「相手も体が大きく、投げるタイミングがなかった。時間をかけて攻めていこうと思ったところだったので、(相手の指導には)少しびっくりした。勝ててよかった」と振り返った。

王者返り咲きを狙う東京パラに向けて、「新しいことに取り組むより、これまでの稽古をしっかり積み重ねることが大事。自分の中でやりきったと思えるよう、悔いのないようにしたい」と語気を強めた。

女子57キロ級も欠場者が出て2選手による“一発決勝”となり、リオ大会銅、昨年の世界選手権(ポルトガル)銀の廣瀬順子(伊藤忠丸紅鉄鋼、28)がインドネシアの選手に大外刈りで1本勝ちを収めて優勝。試合開始からわずか9秒、さすがの切れ味だった。

「1試合だけでしたが、確実に勝つことができてよかった」と笑顔を見せた廣瀬。今大会には「守りからの攻め」をテーマに臨んだといい、「相手が何か技をかけようとしたところをしっかり防いでから技に入れたので、(練習してきたことが)うまくできた」と振り返り、大外刈りはあまり使わない技だというが、「今がチャンスだと、自然に体が動いた」と手応えを口にした。

「今年は国際大会がたくさんある。守ってばかりでなく、自分から技をかけて、2020年につながる年にしたい」と、目標とする金メダル取りに向け、決意を新たにしていた。

3選手が出場し総当たり戦で競われた女子52キロ級では、昨年のアジアパラ大会(ジャカルタ)銀の石井亜弧(三井住友海上あいおい生命保険、30)が2試合とも一本勝ちを納め、優勝した。とくに2試合目のカナダ選手戦は延長戦までもつれ、約10分と長い試合となったが、抑え込みで勝ち切る粘りを見せた。

「ゴールデンスコアを、苦手の寝技で勝ててよかった。自信になった。課題はまだあるが、気持ちの面で負けないよう、2020年に向けて1試合1試合を大事にしていきたい」と、2大会連続のパラ出場を目指し、力を込めた。

永井選手

永井選手

男子73キロ級は6選手によるトーナメント戦を永井崇匡(学習院大、24)が勝ち抜き、頂点に立った。1回戦は不戦勝で、2回戦は延長までもつれるもカザフスタンの選手を巴投げで下し、決勝では開始1分すぎにフランスの選手を倒して抑え込んだ。

連続1本勝ちの快勝にも、「優勝という結果は嬉しいが、練習してきたことが出せなかった。まだまだやり切れていない、という思いのほうが強い。足技で相手の体勢を崩し、自分に有利な形で技を掛けられるようにしたい」と、笑顔はなし。

初出場を目指す東京パラに向けて、「あと1年と少しだが、やれることはまだある。課題を一つひとつクリアして、最終的に優勝を目指したい」。この勝利を糧にするつもりだ。

日本勢は他に、藤本、佐藤を含む3選手が2位、9選手が3位に入るなど健闘。階級によってはベテランと若手など、日本人同士の激しいつばぜり合いも見られた。日本チームとして切磋琢磨することは間違いなく、来年に迫った東京大会での活躍にもつながるはずだ。

なお、今大会は視覚障害者柔道の国際大会としては1991年以来、28年ぶりの国内開催だった。主催した日本視覚障害者柔道連盟によれば、今後も継続して開催の意向で、来年も3月開催で調整中という。東京パラ目前の大会に、さらなる熱戦が期待される。

(取材・文:星野恭子)
(撮影:吉村もと)