東京マラソン2019・車いす男子は、スイスのマルセル・フグ選手(33歳)が20キロ地点から独走して、優勝した。
記録は1時間30分44だった。
2位は、アメリカのダニエル・ロマンチュク選手(20歳)記録1時間34分26、3位は南アフリカのエレンスト・バンダイク選手(45歳)記録1時間34分41だった。
「雨は、自分にとって有利だった」
マルセルは、今大会のレースを振り返って、こう話した。
陸上競技用の車いす(レーサー)は、車輪の外側についているハンドリムを叩くように推して漕ぐ。
雨でハンドリムやグローブが濡れると滑ったり、手の力が上手く伝わらなくなる場合がある。
選手たちはそれぞれグローブや漕ぎ方を工夫して雨対策をしているが、雨天の影響を大きく受ける選手と、それほど受けない選手がいる。マルセルは、手袋に工夫をして雨天の対策をしており、雨を得意としている選手だ。
レースは、序盤から大きく動いた。
東京都庁前をスタートすると、エレンスト、マルセル、ダニエル、そして日本の西田宗城選手が飛び出し、下り坂を一気に駆け降りた。
市ヶ谷、飯田橋を過ぎ、靖国通りを日本橋方面へ向かう途中、7キロ過ぎで西田が先頭集団から離脱。
優勝争いは、海外勢3選手に絞られた。
銀色のヘルメットを被るマルセルは、「銀色の弾丸」というニックネームを持っている。
このニックネームから、高速スピードで突き進んでいくイメージが沸くが、レース中のマルセルの様子を見ていると、狙った的を外さないよう確実にレースを展開していく慎重さも垣間見える。
銀色のヘルメットは、3人の先頭集団の一番前を走りながら、何度も後方を伺った。
後ろを走る選手たちの様子を確認している。特に注意を向けていた相手は、20歳のダニエルだ。
マルセルは、2018年のシカゴマラソン、ニューヨークマラソンでダニエルと優勝争いをした。
いずれも終盤の勝負となり、僅差で敗れている。
東京マラソンのコースは高低が少なく、選手たちが互いを振り落とす「仕掛けどころ」が少ない。
2017年、2018年の東京マラソンでは、優勝争いが終盤までもつれ、ゴール地点の東京駅直前のラストスパートで勝敗がついた。
マルセルは、東京マラソンのコースの特徴や過去のレース展開などを踏まえて、勝つための戦略を練ってきたのだろう。
レース後の会見では、「20キロくらいから攻めていこうと考えていた」と明かした。
雨に打たれることで体力を消耗していることも念頭に、20キロ付近から揺さぶりを掛けて、他の選手を疲れさせることを意識していたという。戦略は上手くはまり、ダニエルが遅れ出したのを見て、一気に引き離した。
2位のダニエルは、「マルセル選手は力強さを活かして、どんどん加速していき、最終的には他のみんなが脱落してしまったレース展開になった」と振り返った。雨と寒さ、少し風もあった中で、2位という自身の結果には満足していると話した。
日本勢では4位(日本人1位)に、洞ノ上浩太選手(44歳)が入った。
カナダのジョシュ・キャシディ選手、日本の鈴木朋樹選手と3選手で第2集団を形成していたが、洞ノ上は、スプリント力を備える鈴木と終盤で競り合うことは避けたいと考えていた。25キロ付近の登り坂で仕掛け、ジョシュと鈴木を振り切ったという。
レースディレクターを務め、選手として出場した副島正純氏は、自身の体感として「予想以上に寒かった。5キロ地点から、手先がしびれるほどになり、グローブを掴んでいる感覚もなくなりました」と説明。途中棄権した選手が多かったことに触れ、「こういう東京マラソンもあるということを知ってもらえる大会となった」と位置づけた。
車いす女子は、スイスのマニュエラ・シャー選手が1時間46分57で優勝した。マニュエラは、「10キロ地点までは普通通りだと思ったが、10キロ以降は、寒さも雨も強くなった気がする。途中で完走できるかどうか不安もよぎりました」とコメント。厳しい条件の中で優勝できたことに安堵と喜びを示した。
2位はタチアナ・マクファーデン選手(アメリカ、記録1時間48分54)、3位はスザンナ・スカロ二選手(アメリカ、記録1時間54分32)。日本勢は、中山和美選手が5位(2時間03分40)に入り、喜納翼選手は途中棄権だった。
取材・撮影:河原レイカ
写真提供:東京マラソン財団